洒落にならない怖い話を集めました。怖い話が好きな人も嫌いな人も洒落怖を読んで恐怖の夜を過ごしましょう!

  • 【洒落怖】池に浮かぶもの

    2023/08/29 18:00

  • 知り合いにHさんという人がいる。

    Hさんは会社をすでに退職した身で、退職した後で少し体を悪くしてしまった。それ以来、医者のすすめで、家の周辺を毎夕、散歩することにしているらしい。

    Hさんの家は、山の手の閑静なところにあり、近所付き合いもあまりなく、周囲を出歩く事もすくなかったHさんは、やっと今になって、自分の住んでいるところを見て周る機会に恵まれたという。そんなHさんが、ある話をしてくれた。

    ある日の夕方、Hさんはいつも通りに家の周囲を散歩していたのだが、今日に限って少し遠出をしてみることにしたという。家から少し離れたところに神社があり、そこへ寄ってみたのだ。

    神社の奥にはうっそうとした森があり、Hさんはそこへ足を踏み入れた。木々の間から光が差し込み、ひぐらしの鳴き声があたりに響く。

    森の中はひんやりしていてとても素晴らしい場所であったらしい。「はじめて来たけど、いい場所だなあ。

    もっと早くに来ていれば良かったなあ」Hさんはそう思い、さらに奥へと足をのばすと、突然、目の前が急に開けたらしい。深い緑色の水がそこにあった。

    そこは溜め池だったらしい。それにしても、大きな池であったらしいのだが。

    周囲に木がおい茂り、池の中も水草でいっぱいであり、魚も多くいそうだった。Hさんは、自分が釣りの趣味があればよかった、などと思いながら、池の周囲を散策していた。

    スーッと、Hさんの目の前をトンボが飛んでいった時、ぼちゃン水音がしたそうだ。Hさんが首をまわすと、岸から4~5mくらい離れた所の水面に大きな波紋が広がっていくところだった。

    「魚でもはねたのか?」そう思ったHさんの目の前に、突然、「それ」が浮かび上がったらしい。「ボール・・・?」Hさんははじめそう思ったそうだ。

    それは灰色のぐちゃぐちゃしたボールに見えなくもなかった。ちょうど、サッカーボールくらいの大きさだったらしい。

    誰かが、池にボールを落として、それがガスが抜けて、浮かび上がってきた―・・・Hさんはそう考えたそうだが、それにしてはボールがおかしい。ボールの表面に、血管のような網膜模様がはしり、黒い二つのビーダマのような穴があって、こっちを見ている。

    それはまるで目玉のように見える・・・魚臭い匂いがあたりに漂ってきた・・・そのとき、「キキキキキキキキ・・・」突然ヒグラシの大合唱がはじまり、森はその声に包まれた。Hさんの注意は、その瞬間、森へと向けられた。

    そして、ハッとした彼が、池に視線を戻すと、そこには緑色の水が広がっているだけだった・・・Hさんが言うには、「それ」は、マネキン人形の頭部のようだった、というらしい。髪の毛も何も無いマネキンそっくりだった、と。

    もっとも、普通、池の中にマネキン人形などがあるはずがない。Hさんは、現在も変わらず散歩を続けているが、依然とはそのコースが微妙に違うという。