とある恋人同士が結婚して、マイホームまでの繋ぎにとアパートに新居を構えた頃のことです。
2階建ての木造という絵に描いたようなボロアパートの階段は、タンスを運び込む際、キイキイといやな音をたて、何となく薄気味悪さを感じさせました。アパートの住人に挨拶に廻らなければと思っていた矢先、若奥さんが体調を崩し、実際にお隣さんを訪ねたのは2日後のことだったそうです。
挨拶が遅れたのが気に障ったようで、どうも嫌な顔をされてしまった…しょんぼりと頭を垂れる奥さんを、旦那さんは「どうせすぐ越すのだから」と慰めました。その次の日から、家に悪戯電話がかかるようになりました。
旦那さんがいるときは何もないのですが、奥さんが家にひとりでいると必ず無言電話がかかってくるのです。新婚生活ですから、電話のことは幸せな空気に閉め出されて、奥さんも特に気にしていなかったのですが、次第に旦那さんが帰ってくるまでの時間を長く感じるようになりました。
気になっていた隣人が怪しいと、ノイローゼ気味の奥さんは夫に訴え、仕方なく旦那さんは妻の手をひいて隣の部屋を訪ねました。悪戯の犯人に疑われていたお隣さんは、驚いて誤解を訴えました。
「奥さんが挨拶に来てびっくりしたんですよ。だって、引っ越しの夜に別の女の人が挨拶に来ていたものだから」青ざめながら二人が部屋に帰ると、カギを閉めた部屋の玄関にあった奥さんの履き物が、アパートの前の道路に投げ捨てられていたそうです。