小学校4年生の時の事。
いつものように登校すると、みんなが騒いでいた。夜間に侵入者が入り、兎小屋の兎がみんな殺されたのだった。
兎の頭だけが5つ、飼育小屋に並べて置いてあった。当時はよくあった事件だったので、ついに来たかと、悲しいながらも冷静な気持ちだった。
先生達が校庭の隅に墓を作ったので、クラスのみんなでニンジンを供えた。殺された5匹の兎達に一本ずつ。
計5本だ。あくる日、登校して、墓を参りに行った。
墓には昨日のニンジンが無かった。皆知らないと言う。
そんな時、5年生の飼育委員の人が現れて言った5本のニンジンが、うさぎの飼育小屋の中にあったと。しかも、まるで兎が食べたようなかじりかけの状態で。
兎の幽霊がニンジンを食べた!クラスはその噂で持ち切りだった。先生達に、その話はするな。
と怒られたが、みんなおかまい無しだった。結局、事件の犯人も、ニンジンの謎も、迷宮入りだった。
時はたち、6年生になった。新しい兎達も入って来ていて、飼育小屋には活気が戻っていた。
そんな折り、また、殺兎事件が起きた。早朝登校してきた飼育員の話だと三羽の兎の頭だけが3つ、並べて置かれていたそうだ。
あの時と同じ。皆忘れ欠けていたのに、またも学校中は噂で持ち切りになった。
俺とクラスの友達数人で、その頃流行っていた、少年探偵クラブなるものを結成し、ガキなりに調査を始めた。「聞き込み」の結果、学校のすぐそばに住んでいる山根君から、夜中、「学校敷地内をうろつく見知らぬ人物」を見たという情報を得た。
その情報を元に、俺達は、次に来る兎を囮にし、犯人を捕まえてやろうと計画を立てた夏が来て、兎小屋にも新しい兎が来た。今度はたった二羽きりだ。
不審者の情報をくれた山根君を探偵クラブ仲間に引き入れ、監視員に命じた。「夜、できるだけ学校の方を監視する」というアバウトな指令だ。
ある夜、山根君から連絡があった。学校に入って行く、何か動物を連れた不審者を見た。
と。探偵クラブはすぐさま全員集合した。
武器はバットにスパナにハンマーだった。静かに飼育小屋の方へ向かう。
いた。男だ。
男が大きな犬をつれて飼育小屋の前に立っている。物陰から様子を見ていると、男は簡単に鍵を開けてしまい、飼育小屋の中に入った。
そして兎を抱き上げ、何かキラリと光る物を取り出した。アッ!と思った瞬間には、ゴロリと、兎の首は落ちていた。
血が勢いよく吹き出ていたのかもしれない。暗くてそこまでは見えない。
男は、兎の胴体部分を両手に乗せ、大きな犬の方に差し出した。あれは、猟犬か何かだろうか。
犬は、兎の胴体に喰らい付いた。男の手から、肉を食いちぎっては噛み、そして飲み込んで行く。
ゴクリ。俺達はみんな言葉も無く、ただ見ていた。
男が、残った骨らしきものを、透明なビニール袋にいれていく。そしてそれを持ち上げた。
蛍光灯の光に照らされる。とてもおぞましい物だった。
それを見て、仲間の一人が吐いてしまった。全員躊躇する。
その音で、男が気付いてしまった。こちらを向き、走って来た。
「逃げろ」仲間の誰かが言った。その言葉が出た瞬間、みんな一斉に逃げ出した。
走って、走って、山根君の家まで逃げた。山根君の親に、そしてそれぞれの両親に、そして警察へ、この事は伝えられた。
俺は両親にこっぴどくしかられた。警察官に話を聞かれた。
俺達は、知っているすべてを話した。だが、顔が曖昧でイマイチ役に立てなかったのか、犯人は捕まる事が無かった。