年の夏にあった話です。
俺は通学のため朝の八時頃電車に揺られていました。朝のラッシュ時で、電車はギュウギュウに混む日と、そこそこ混む日と混み具合にむらがあったのですが、その日はそれほど空いてなく俺はつり革を掴みながら窓の外の流れる風景を眺めてました。
ふと横を見ると、窓の外に車両の連結部分から手が出ているのに気が付きました。びっくりしましたが周りの目を気にする性格の俺は声も出さず成り行きを見守ることにしました。
大都会のことですから、可笑しなことをする人はよくいるもんだと達観したつもりでいたのですがやがてその手はゆっくり移動し始めやがて体全体が、そして顔まで見えるようになりました。多分二十代前くらいの女性です。
まるでレンジャー部隊のように車両の側面を移動しているのです。その女性は俺の立っている方向に移動してきます。
そして嬉しそうな顔で乗客の顔を眺めているのです。そのうちに俺と目が合いました。
こんな可笑しな状況になっているのに他の乗客は平然としているのです。少しおかしなことに気が付きました。
その女性、両手が窓に張り付いていたのです。てっきり今まで、ロッククライミングのように車両の出っ張りに手をかけて移動しているものだと思っていたのに、違うようです。
そしてその女性は俺の前まできました。窓ごしに俺のことをずっと見ているのです。
まずいことに気が付きました。俺は彼女と目が合ってたのです。
少し立つとまた移動を始めました。今度はドアのところに張り付いてずっとこっちを見ています。
もうその時点で、彼女が何者なのか想像はついてました。そしてドアが開くのを待っているのです。
次の駅に到着のアナウンスが流れ、おれは慌てて隣の車両に移り、駅に着くとダッシュで駅を降り逃げました。後ろは振り返れませんでした。