私が5歳くらいの頃の話を。
母の友達が家を新築したので、遊びに行った(車で、ちょっと遠かったのを覚えている)。そこの家には大きな犬がいて(今にして思えば中型犬くらいなんだけど)、子供心に凄く怖かった。
しかし、犬は人懐っこくて怯える初見の私にもフレンドリーだった。ちょっと慣れてきたせいもあり、母親達が家の中で話し込んでいる間、私は庭で犬に遊んでもらっていた。
小一時間もたった頃だろうか、何故か急に犬が吠え出した。低く唸ったりもして、とにかく怖い。
私に向かって吠えてるのだと思いこみ、怯えつつコンクリの塀みたいなとこに登って逃れた。犬は吠えつづけるんだけど、「あれ」と思った。
犬は、私を見ていない。不安定な塀の上で「あれー?」と、子供心に違和感を覚えた。
途端になんだか腕を引かれるような感覚。バランスを崩して塀から外側に落ちそうになった瞬間、庭側から母にぐいと腕を引かれて抱きとめられた。
犬はまだ私の立っていたあたりに向かって吠えていたが、飼い主である母の友達に宥められた。でも、犬はしばらく視線を外そうとしなかった(遊んでくれてた時と目つきが違うのも覚えている)。
私は犬を怖がって塀に登っては危ない、と二人に怖い顔で説教された。洒落にならないのは、塀の外側が崖だったということ。
そして、犬は何を見ていたんだろうか。