洒落にならない怖い話を集めました。怖い話が好きな人も嫌いな人も洒落怖を読んで恐怖の夜を過ごしましょう!

  • 【洒落怖】白い子供

    2024/11/14 18:00

  • 当時俺は大阪に住んでいた。

    長い様で短い大学生活で慣れ親しんだ街は今振り返っても鮮明に思い出すことが出来る。あれは卒業も間際に控え日々忙しく送っていた11月の事か。

    俺には年の離れた友人がいた。20台前半の小僧の俺とは違い氏はその時すでに還暦を迎えるか迎えないかの瀬戸際だったと記憶している。

    実家から進学のため故郷を離れ初めての一人暮らしに不安と期待で胸を一杯にし入学式までの僅かな期間に出会い、随分と世話して貰った俺にとって恩人とも言える人であった。当時の俺はこれから始まる新生活に思いを取られ周囲の状況を省みる事など出来ず、氏と共に酒を飲んでは不安から鯨飲し小僧らしいやんちゃな行動をし朝に記憶をたどり死にたい思いに駆られる毎日を送っていた。

    そんな俺に氏は迷惑そうな顔一つせず常ににこやかな表情と態度を示してくれていたと記憶している。大学が始まり同級の友人も随分と出来、講義に部活に遊びにと忙しく日々を送るようになりじょじょにじょじょに氏とは疎遠になり年に1度酒を飲む程度の付き合いになっていき、不義理な事に連絡があれば氏の事を思い出す程度に俺はなっていた。

    氏から突然連絡があり酒を飲まないか?と誘われたのは色々とあった大学生活も気がつけばゴールが見え周囲も慌しくなり年の瀬も迫ったある日の事であった。その頃の俺は人間関係でミスを犯し、疎外感、孤独感から半ば引きこもりの様に生活しており大学生活が終わる不安からくるメランコリックも併せ周囲の人間に心配をかけ非常にギスギスした空気をつくりだしていた。

    そのためか友人が差し伸べてくれる手にもシニカルな視線を向け(上辺の優しさなんかいらねぇよ・・・放っておいてくれ・・・)等と自己の内により一層沈んでいく無限ループに嵌り込んでいた。そんな始末に終えぬ状況であったため、氏から誘いがあった時、寂しさと人と触れ合いたいという思いからか俺は一も二もなく飛びついた。

    大学入学当時以上に周囲の見えぬ俺は、その時の氏がいかなる苦境に立たされれていたか、何故今更俺に等連絡を取ったか等には想像力を発揮する事が出来ずただ自身のうさを晴らしたい、誰かに話を聞いてもらいたいと相も変らぬ自己本位な行動を取っていた。その日、俺が体験した事は今思い返してもとても現実にあった事とは思えず、当時俺は知る事がなかったが俺が追い詰めれていたのと同様に追い詰められていた氏。

    二人の悪化した精神状態が見せた幻覚ではなかったのか。そんな事を今でもふと思考する。

    氏と酒を飲む時は常からそうであった様に、焼肉好きの氏がお勧めする店へと氏のメルセデスで向かう運びとなりその日も当然の様に大学をサボり遅まきながら購入したノート型PCで日課の家ゲ板ウォッチングに勤しんでいる内に合流する時間が訪れた。久しぶりに会う氏を見て俺は我が目を疑った。

    大食漢であり恰幅の良かった体は不健康に痩せ、顔色は黒ずみ目の下には隈が浮いている。(おいおいおいおい。

    何事だよ?)俺は内心の動揺を隠すかの様に愛想笑いを浮かべ「お久しぶりです。」等とにこやかに挨拶した。

    氏はかつてそうであったかの様ににこやかに微笑みながら「ボン。ひっさしぶりやのぉ。

    」と返した。その様子を見て俺は(何だ。

    いつもの氏か。病気でもしたのか?)と内心で安堵を浮かべ、氏と近況を話しながらメルセデスの助手席に乗り込んだ。

    食道楽でありやたら顔の広かった氏が薦める店は、一度として同じ店がなくその全ての店が料理、酒共に美味であった。見た目の変化はどうあれ常と変わらぬ態度の氏に安心しきった俺は現金な事に今日行く店で食べる焼肉の味に期待しつつ久々に気負いなく出来る他人との会話を楽しんだ。

    今なら分かるが、この時の氏も恐らくさして俺と変わらぬ心境であったのだろう。当時の他人にかまける余裕も優しさも喪失ぎみであった俺には想像すら出来なかったがこの時、氏が抱えていた問題は俺個人の吹けば飛ぶ様な問題なぞを吹き飛ばす程大きなものであり表面上は普段通りのにこやかな態度を示した氏の偉大さはまさに年季が違うものであった。

    つくづくこの時の俺は甘ったれであった。当然の様に美味であった焼肉を思う存分代金氏払いで楽しみ、鬱憤を晴らすかのように酒をのんだ俺は酒の力を借り気が大きくなったかしだいに普段通りの余裕を取り戻し、そこでようやく氏の状況を判断する視線を回復した。

    (やっぱ、明らかに普段と違う。会話のレスポンスが悪い、聞いている様で上の空だ。

    こりゃ絶対何かあったな・・・)記憶の中の氏はその年齢からすると信じられないくらい食べ、飲んでいた。だが目の前の氏は食欲が無く申し訳程度に箸をつける程度であり、酒だけを只管呷っていた。

    「そういや、今日は急にどうしたんですか?あんま元気ないみたいですし、何かあったんすか?」酒の力もあり気が大きくなっていた俺は今更の様に氏に切り込んだ。「ん?おぉ・・・いやなボン。

    」そこで氏はジョッキを傾け残りの液体を喉に流し込むと「色々あってん。これが。

    いや、そう大した事ちゃうねんけどな。」「まぁ今日はしんみりしてもしゃあない。

    ボン明日は学校休みやろ?ほぅたら飲みぃや。」そう苦笑しつつ言った。

    (いやいや。絶対ぇ大した事だろそれに明日は学校あるし。

    いかねぇけどな。)だが、これ以上切り込んで氏の不況を買い久々の楽しい場を壊す気にもなれず俺は追及を諦め、せめて楽しんで少しでも氏の気が軽くなるならばそれでいいかと考え飲酒運転の氏が駆るメルセデスに乗り込み2件目のバーに向かうのであった。

    程よく酔いが回り今ひとつはずまない会話をし、だがそれでも多少顔色のよくなった氏を見てすでに時刻も深夜0時を周った事だしそろそろお暇しようかなと俺が思い始めた頃「久しぶりに楽しかったわ、ボン。どや、これから家行ってあの酒飲まへんか?」突然、氏がそう言った。

    氏の自宅には大学に入学してすぐの頃に一度うかがった事があり、2階のオーディオルームに鎮座された当時高価だったワイド型ハイビジョンテレビと壁際のサイドボードにずらりと並べられた高級酒の数々は俺に(この人めちゃくちゃ金持ちなのね・・・)と思わせるに十分な品々であった。あれからもう何年も経つ。

    しかし端から行く気はないと言えど明日は平日で講義もある。俺は訝しく思いつつも氏に尋ねた。

    「おばさんに迷惑じゃないっすか?それに明日も朝から仕事あるでしょう。」「あぁ・・えぇねんあいつ今おらへんしな。

    実家に筍取りに行っとるわ。」「そうっすか・・」筍が一体何時ごろ採取出来る物であるか残念ながら当時の俺には判断できず、しかし僅かなきな臭さを感じ取りながら俺は思考した。

    (何だぁ?家に呼ばれるなんざ何年ぶりだ?それにあの酒・・・誰にも飲ませへん!とか言ってなかったか?)しかし相手は散々世話になった氏だ。今日一日で多少顔色が良くなったと言えど明らかに様子がおかしい。

    (まぁ誰にでも一人になりたくない時くらいはあるか・・・)そう気を取り直した俺は明日一日潰れるくらいは今までの恩返しだな。と「いいですよ。

    まだ飲めますし。どうせ暇です行きましょう。

    」そう答えた。(ヤバくなっても俺の家まで氏宅からはいそげば30分だしな。

    )「ほぅかぁ・・ほな行こか。車乗りぃや。

    」氏は嬉しそうに応えた。久しぶりに見る氏宅は閑静な住宅地の中でひときは豪奢ななりを当時のままに保っていた。

    玄関先でブーツを脱いでいると「先ぃ風呂入れてくるけん、2階でこれ飲んで待っててや。」氏に手渡された2本の缶ビールを持ち俺は2階への急な階段を上がった。

    数年ぶりに見る部屋はさすがに当時とは変わっている様に思えたがどこがどう変わっているのか判断出来ない。当時のままに配置されたテレビ前のソファに腰掛けプルタブを引いた。

    落ち着いて部屋の様子を見分する俺。どうも当時壁際にずらりと並んでいたナポレオンやらルイやらの数が随分と減っている感じがする。

    何となくだが部屋が埃っぽい。(おばさんが実家に帰ったって、逃げられたんじゃねぇのか・・?)明らかに手が入っていないらしい部屋の状況からそんな疑念が沸いて来る。

    しかし家族間の事など当事者同士の問題であり俺が口を出す事などでは決してない。そう気を取り直しビールの呷る俺。

    (今日は何だかんだで随分飲んでるな。)そう考えると急に尿意を感じてきた。

    確か部屋を出て階段とは逆方向の突き当たりにトイレがあったなと思い出した俺は「すいませーん。」と声を張り上げた。

    しかし風呂の準備をしているらしい氏には聞こえてはおらず、諦めた俺はノーマナーだと思いつつもトイレを借りる事にした。ビールをテレビ前にテーブルに置く。

    立ち上がる。方向転換。

    ライトのスイッチを切る。部屋を出る。

    小用を足し、オーディオルームに戻る俺。扉を開きライトのスイッチを手探りで探る。

    カチッとプラスティック特有の音が耳に入る。これだけは何故か旧式の室内灯が点滅する。

    俺は我が目を疑った。室内灯直下、ちょうどテレビの正面辺りにライトの点灯に併せ、小さな子供の様な白い何かがいる。

    旧式の室内灯は明かりがつき切るまでに何度か点灯し、完全に明るくなるには僅かに時間がかかる事は経験で知っている。(眼球に付いた傷か埃のせいで見えるアレだ絶対にそうだ。

    じゃなければ見間違いにすぎない!)俺は自らに言い聞かせる様に何度も何度も同じ事を思考する。大きく息を吸う。

    右手は未だにスイッチの上だ。指先に僅かな震えを感じながら、俺は大きく呼吸を繰り返す。

    (今日はかなり飲んだ。そのせいに決まっている。

    あんなものがいるはずがない。)思考を繰り返す。

    すでに部屋は明るい。テレビの前に視界を向ける。

    ・・何もない。意を決した俺は右手に力を込め、スイッチを押す。

    カチッ、部屋が暗闇につつまれる。廊下にも電灯はあるのだろうが俺にはそのスイッチの場所が分からないため暗いままだ。

    恐らく1階で風呂に入っているであろう氏が付けている電灯の明かりだけが幽かに階段を通し2階にも漏れている。テレビの前を凝視する。

    ・・何もない。カチッ、室内灯が点滅する。

    テレビの前を凝視する。部屋が点滅する。

    ・・何もない。ゆっくりと強張った右手をスイッチから離す。

    まだ震えているのを感じる。足を前に出す。

    一歩、二歩、ソファー前に立つ。テレビ前には相変わらず何もない。

    緊張ですでに口で呼吸をしていた俺はそこでようやく大きく息を吐いた。(何だよ。

    ビビらせんな。やっぱ何もねぇじゃん。

    )回り込みつつソファに深く腰掛けすでに半ばまで空けていたビールを一気に呷る。ぐびっ、ぐびっ、盛大に咽て吐き出しそうになるが人の家である事を思い出し必死に耐える。

    (何やってんだ俺・・・・ビビりすぎ。情けねぇ。

    )咽て涙の滲んだ目蓋を擦りながらそんな事を考える。急に馬鹿馬鹿しくなり天を仰ぐ。

    ふーっと息をつき少しそのまま体を休める。(そういや氏は何してんだろ?風呂の準備にしちゃあ時間かかりすぎてるな。

    ま、そのまま風呂に入ってるんだろうが。)じょじょに余裕を取り戻しつつあった俺は、2本目の缶ビールのプルタブを引き、音がない寂しさが気になるためテレビでも着けようかとリモコンを探す。

    何のことはなくテレビ台の上に置いてあったそれを発見した俺は、大儀そうに体を起こしテレビの前に移動した。ビール片手にリモコンを手に取り、何となくおっくうだったのでテレビの前にしゃがみこんだままリモコンのスイッチを押す。

    プツッ・・・・チュィィィン・・・・・ブラウン管に走査線が走るまでの一瞬の間。黒い黒いテレビ画面。

    しゃがみこんだ俺。右肩辺りに白い子供。

    一瞬にして血の毛が引く。心臓が止まったかの様に感じる。

    瞳孔が開いていく。画面にはすでにCNNニュースらしき映像が流れている。

    自分の姿も白い子供もすでに見えない。左手が冷たい。

    右手はリモコンを握り締めている。ガクガクと音がするほど震える膝を何とか伸ばしとにかくテレビから離れようとする俺。

    そこでようやく左手を震えているため満タン近く中身のはいったビールがこぼれ冷たいんだと理解した。思考停止状態から復旧した俺は、(とにかく落ち着け。

    とにかく落ち着け。とにかく落ち着け。

    )ひたすら自分に言い聞かせる。膝を伸ばしきっただらしない格好。

    視線はテレビにへばりついたままだ。画面には訳の分からない外国語のニュースだけが流れている。

    (落ち着け。落ち着け。

    落ち着け。)濡れた左手が滑りビール缶を落しそうになった時、ようやくまともに頭が回り始めた。

    他人の家でビールを盛大に床にぶちまける訳にはいかない。と常識的な思考をしたためか、視線をテレビから外し左手に向ける。

    リモコンを持ったままの右手を左手に添える。何とか滑り落ちそうなビール缶を保持し上体をそのまま前かがみにしとにかくビールを吸う。

    じゅる、じゅる、じゅる、そのまま両手を傾け一気に呷る。よく冷えた液体が口腔から食道へと流れる。

    缶の重さをほとんど感じなくなるまで一息に飲むと、ようやく心臓が動いている気がしてきた。(明らかに子供だった。

    せいぜい5,6歳がいいとこの、子供だった。)咽る喉を何とか押さえつつ、思考する俺。

    (見間違い。酔っているせい。

    十分ありえる。だが、明らかに何か見ちまった。

    )基本的にオカルト話は大好物だが、霊などはこの世界にいる訳が無いと言うスタンスをとっていた俺。だが明らかに今、何かを見た事を認識する。

    荒く呼吸しながら、(もう一度テレビを付ける?出来るか?つかマジで見た?やべぇ。)混乱状態の俺にまとまった思考など出来るはずもなく色々な言葉が脳裏に飛び交う。

    だが霊などいる訳ねぇと言いつつも心の中では会いたい見たいと思った俺。ビールに濡れた手で顔面を擦りながらももう一度確かめたい思いがふつふつと沸く。

    氏は未だに風呂だ。リモコンはまだ握っている。

    何とか立ち上がり、よろよろとソファーに腰掛ける。すでにほとんど中身の入っていないビール缶を律儀にも先程空けた缶と並べる。

    浅く浅くソファーに腰掛けながら、リモコンをテレビに向ける。ぺらぺらと外国人がしゃべっている画面を凝視する。

    親指で適当にスイッチを押す。画面が切り替わる。

    外国人が歌を歌っている。ひたすらスイッチを押す。

    次々に画面が切り替わり、そしてついにブツッと音がした。画面が消えるのは一瞬だった。

    凝視する。一瞬白いものが見えた気がする。

    だが反射される黒い画面には俺がリモコンを持っているまぬけ面しか映っていない。そのままの体勢でしばらく画面を凝視し続ける。

    相変わらず自分だけが映っている。恐らく50インチを超えるであろうワイドな画面には他におかしな所はなかった。

    (見間違い?んな事ある訳ねぇ。)大分冷静さを取り戻しつつあった俺はソファから立ち上がりもう一度テレビの前に移動する。

    何となくブラウン管を手で拭う。やはり少しだけ掃除されていないらしく少し汚れた手を見る。

    前屈みの体勢のままリモコンを向ける。スイッチを付ける。

    ガチャン!!!心臓が止まりそうになる。振り返る一瞬、明らかにブラウン管に白い何かが視界に入る!恐怖で固まる俺に「ボン、風呂ええで。

    はい・・・・・・・・・・・・」先程の大きな音は氏が扉を開いた音だった。扉を開いた体勢のまま固まっている氏。

    驚愕の表情を浮かべている。氏の視線が明らかに俺の後方にあるテレビを向いていると確認した俺はリモコンを放り出しソファを乗り越え固まったままの氏を通りこし1階へほとんど飛び降りる様に走った。

    急な階段を駆け下りる俺だが当然靴下を履いており膝は未だにガクガクと振るえている。残り3段の辺りでとうとう滑り転ぶ。

    手すりを何とか掴み、派手に尻餅をつく。尻から背中にかけて激痛が走るが、そんな事が気にならない程俺は恐怖していた。

    何とか立ち上がり壁に手をつきつつ玄関に到達する。ブーツの履きにくさに殺意すら覚えながらも無理矢理足を突っ込む。

    「ボ・・ボン・・・」階段の中程に俺同様手すりに掴る様な体勢をした氏がいた。暗くてよく見えないがお互い蒼白の酷い顔をしていた事だろう。

    「か、かか帰ります。ごちそうさまでした。

    」何とかそれだけを言った俺はガチャガチャと鍵を外しに掛かった。「ほ、ほうかぁ・・・泊まってったらええのに・・・送ってこか・・・」そんな事を氏は口にしていた様な気がする。

    その時にはすでに俺は氏亭を飛び出していた。俺がようやくまともに思考出来る様になったのは、間抜けな話だが堅いブーツに足を突っ込んだだけで、土踏まずの辺りでブーツを踏んでいたため酷い靴擦れを起こし、その痛みを感じたからだった。

    何とかガードレールまで歩ききり、血がしみこんだ靴下にブルーな心境になりながらも、ブーツを履きなおしそこで俺は携帯で近くの友人に救援を申し込んだ。幸いにもまだ見捨てられてはいなかったらしく、車で迎えに来てくれた友人に今日あった事を訳の分からない口調で説明しそのまま友人宅でまんじりともせず夜を明かした。

    結局、その後卒業し数年経つまで氏の消息を知る事は俺にはなかったのだが、縁とは不思議なものでその後に付き合う事になった女性が氏の奥さんの知り合いである事が判明するまで俺は氏とは完全に没交渉であった。後記その後の事は氏のプライバシーに関わる事でありあまり語れる内要ではない。

    そのために後記などといった形で書き記す程度に止めておく。これは卒業し数年後に久しぶりに電話で話した氏自身の話を俺なりに解釈し薄めた内容である。

    氏は当時、氏自身の息子と直接的に仕事上で対立していた。しかし息子は紐付きであり所謂やくざ屋さんに色々と握られ食い物にされていた。

    そのため氏は多くの負債を抱えるはめになり当時の不況も相まって俺と飲んだ当時にはすでに会社を失っていた。家まで失ってはたまらないと考えた氏は妻に家を相続させ離婚し実家に逃がしていた。

    そのため家には手が全くはいっておらずまた氏も俺と家に行ったのが約2ヶ月ぶりの帰宅であった。すでに頼れるものもなく長年親しんだ大阪から逃げるしかなかった氏は最後の思い出に誰からもマークされていないであろう俺を誘い最後の晩餐を開こうとした。

    酒の数が少なくなっていたのは俺の主観ではなく、蓋を開いていない酒を売りに出さなければならない程、追い詰められた結果であったと言う。しかし、結局あの日に見た白い子供に関しての情報を得る事は一切出来なかった。

    それについて氏は知らないの一点ばりでありいささか不自然な程なかった事にしていた。現在は追及も終わり、奥さんと二人その実家に住んでいると言う。

    氏宅がどうなったかは結局知る事が出来なかった。今はたまに氏の奥さんが送ってくる様々な山菜を食べ、氏の健在を祈るばかりである。