ある夜、ふと気配を感じ、目が覚めた。
天井近くに、白くぼんやり光ものが浮かんでいた。目を凝らして見てみると、白い顔をした女の頭だけがぷかぷか浮いていた。
ぎょっとして、体を起こそうとするが、動かない。目を閉じたくても、何故だか閉じることができない。
冬だというのに、脂汗が滲んできた。その女は、無表情のまま、目だけを動かして部屋をきょろきょろ眺めていた。
こっちを見ないだけ、救いだった。固まったまま、どうすることもできず、女を見つめていると急に、こっちを見てつぶやいた。
「どこ?」何が何だかわからない。何を探しているんだ。
俺の部屋に何かあるのか?さっぱり見当もつかない。震えていると、浮かんだ顔がずいっとこっちへ近づいた。
すぐ目の前、息がかかるほどの距離で「ねぇ、どこ?」目を見開き、口をかっと開けたその表情に恐怖が増し、とっさに、「今はない!」と答えた途端、意識を失ったのか、気がつけば朝だった。夢とは思えない感触に、震えは止まらず、すぐに家を出て、友達のAの家に行った。
そのままAの家に泊めてもらおうかと思ったが、その日は良くても、次の日家に帰って出たらどうしようと不安になり結局、Aに、うちに泊まってもらうようにした。夜更けまで話をして気をまぎらわしていたが睡魔には勝てず、いつしか眠ってしまっていた。
再び、あの気配がして、目を覚ました。いた。
俺の上ではなく、Aの上に。Aの顔を覗き込み、じっとしている。
Aは気付かず眠っているようだった。がたがた震えながら、目を逸らすこともできず凝視しているとふーっとこっちへ寄って来て目の前で「違う。
ねぇ、どこ?」息がかかるのがわかる。「今はない!」また気を失ったようで、Aに起こされて、目が覚めた。
夕べの話をしても、Aは何も感じなかった、夢だろうと笑った。俺にはそう思えなかった。
心当たりは何もない。部屋にはたいした荷物もないし、何を探しているのかさっぱりわからない。
今日も泊まっていってくれとAに懇願したが、用事があると断られた。仕方がないので別の友人Bに、泊まりに来ないかと電話をかけた。
結果は同じだった。Bの顔を覗き込み「違う。
ねぇ、どこ?」「今はない」俺は意識を失う。恐くなった俺は、友人Cのところへ泊まりに行った。
部屋を替えれば何ごとも起こらないだろう。友人Cは快く泊めてくれた。
しかし、Cの部屋にもあいつはやってきた。眠ったCの顔を覗き込み「違う。
ねぇ、どこ?」少し慣れたのか、思わず「知らねーよ!」と答えた途端、顔がぶわっと視界一面に広がり、弾けたように消えた。良かった。
いなくなった…そう安堵して、自分の部屋へ帰った甘かった。その夜、また「ねぇ。
どこ?」今までと違ったのは、顔に怒りの表情が見えることだ。俺を責めるように、問い掛ける。
「ねぇ、どこ?」「ねぇ、知ってるんでしょ?どこにいるの?」神経がおかしくなりそうだった。あいつは誰かを探しているんだ。
俺に関係するのか?何もわからない。それから俺は、友人を片っ端からうちの部屋に泊めた。
誰も何も見ない。何も感じない。
しかし、あの女は毎晩俺に尋ねてきた。「ねえ。
どこ?」そんな毎日が続いた。気が狂いそうだった。
しばらくして、友人のHが泊まった時のこと。目が覚めるといつもの女。
もうだいぶ慣れてしまった俺は、女を見つめていた。Hの顔を覗き込み、じっとしていたが俺の方に顔を向け、ぐぐっと寄って来た。
しばらく俺の顔を見つめ「み~つけた」と、にたりと笑った。歪んだ笑みは何とも言いがたい、不気味さだった「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」叫ぶと体が動き、思わず外へ飛び出した。
近くの友人のとこへ飛び込み、がたがた震えて今までの話をした。一旦、家に行こうと言われ、一緒に部屋へ帰ってみると寝ているはずのHの姿はなかった。
それ以来、Hの行方は知れない。Hの家族にいろいろ聞かれたりもしたが、正直に話をしても頭のおかしな奴だと思われたようだ。
俺が殺して埋めたんじゃないかという噂もあった。当時の友人も離れて行ってしまった。
俺のせいなのか。こんなことになるとは思っていなかったんだ。
Hとその女の関係はわからないまま。Hはどこへ行ってしまったのだろう…