この話は、昭和20年代の後半に起こった話です。
ある町のはずれに少年院がありました。名前のごとく18歳未満の少年犯罪者が収容されている施設でした。
当時は、少年院の数が少なく、ちょっとした盗みで捕まった者から殺人を犯したもの、精神異常者まで一緒に収容されていたのです。食料事情が悪かった当時でしたが、きちんと3食出されていました。
しかし、育ち盛りの少年たちには足りずいつも腹を減らしていました。そんなある日、決められた作業中、1人の少年がケガをしてしまいました。
上から物が落ちてきて首筋を深く切ってしまったのです。幸い命はとりとめ、少年院の保健室のベッドに横たわり、腕に注射針をつけたまま、入院生活を送ることになりました。
しかし・・・・少年はいつまでたっても良くならなかったのです。しかも日増しに弱まっていくばかりでした。
輸血の注射を変えて、診断してみても回復が思わしくありません。―――どうも変だ、様子がおかしい―――医師は思いました。
少年の肌の色は、あれほどの輸血にもかかわらず土のような色でした。その夜、自宅に戻った医師は、こっそり少年院へ戻り、深夜保健室の奥に潜んで様子をうかがいました。
電気不足の当時だったのでよほどの事が無い限り電気はつけず月明かりだけの状態です。するとドアがスーーッと開き、一つの黒い影が部屋に入ってきました。
医師は息を殺し、じっとしていました。黒い影の背後にそっと忍び寄り、「なにをしているんだ!!」言うなり部屋の電気のスイッチをいれました。
そこには、輸血ビンを抱え、口のまわりを真っ赤にした少年が立っていました。空腹に耐えかねて、輸血の血を毎晩飲んでいたのです