まだ私が中学生だった頃の話。
私はその日激しい頭痛で学校を休んだ。前夜、祖母から祖父母達の故郷に伝わる狐の話を聞き、友人に話そうと思っていたので凄く不本意な休日になってしまった。
何かあったら直ぐ人が呼べるようにと茶の間の隣の客間に床を取り寝ていた。茶の間では耳の遠くなった祖父が大音量でテレビを見ているらしく、酷くうるさかった。
何とかしたかったが体を動かすのも億劫なので、取り敢えず布団を被ってやりすごす事にした。しかし、何の番組なのか……人のざわめき、神楽のような楽の音、獣の声……兎に角うるさい。
頭痛も更に酷くなっていく。じっとして居られなくて何度も寝返りをうった。
(ああ……頭痛ェ。今日は学校で婆ちゃんから聞いた狐の話するんだったのに)ゴロゴロしながらそんな事を考えてた。
(……それにしても、あの狐の名前……www)祖母から聞かされたのは人を騙し、よく人を殺す……という恐ろしい二匹の狐の話なのだが、名前が矢鱈に滑稽で、私は爆笑してしまったのだった。そしてそれを思い出し、布団の中で再びクスリ、と笑った瞬間、頭にゴッと何か固い物を打ち下ろされたような痛みが加わった。
更に茶の間のテレビ音もでかくなる。痛みと音で頭が割れそうになり、気が遠くなりかけたその時……何かが「はぜる」音というか感触(?)がした。
途端、頭痛とテレビ音が消えた。突然の解放(?)に思考が止まる。
すると私の耳元で、「……あと……だったのに」そう誰かが呟いた。布団をはねのけて飛び起き、客間と茶の間を仕切る襖を勢いよく開けると、茶の間には誰もおらず、人のいた気配もなかった。
アレが何の音で誰の声なのか判らないけど……取り敢えず、あの二匹の狐の名前の話は誰にもしまい、と決め、今に至る。