胎教って知ってるか?S.T.って心霊学者がな、そいつはどうしても心霊の存在を証明したくてな?同好ってことで結婚した同じ心霊マニアの妻に、自作の胎教用テープ(音声)を渡して、27歳なんてまだ若い盛りに自殺したんだよ。
もちろん中身は洗脳テープみたいなものだ。で、妻はな?赤ん坊に暗示をかけることで、夫の魂が入りやすくなると信じてうたがわなかった。
それを生まれるまで、毎日欠かさず聞かせてたんだと。もっとも彼らの目論見は外れて、その子は喋れるようになった後も普通の子。
妻は勿論期待してた。おばさんになった私を愛してくれるかしら、なんて日記に記すほど、信じ込んでた。
でも、その子が十歳になるまで、何度となくあなたは誰?と問い詰めても何の兆候もないと、さすがに諦めた。で、終いに。
息子は自殺した。暗示をかけて憑依しやすくするはずのテープは、全てが無駄だったわけじゃない。
「俺は27歳で死ぬ」の一フレーズだけを正確に催眠誘導したんだ。その一文は、「俺は27歳で死ぬ、おまえを捨てて済まない。
けれど俺は学問の為に成果をどうしても残したい。」っていう狂学者なりのその子への懺悔だったのに。
音楽が心理に与える影響は実証されて久しい、おまえら悪い事は言わないから、変な曲は孕んでる時には聞くなよ。ちなみにその後、妻はというと。
夫と同じ末路をたどった事を、悲しみもせず。「夫の魂がこうさせた!あの子の中にあの人がいたのよ!」って狂喜乱舞。
胸を張って、心霊学会に報告した。ところが、ある種カルトな集団である彼らにも。
これが単なる催眠で、しかも間接的な殺人だっていうのはテープ聞けばわかったらしいのよ。一文を何度も繰り返す、洗脳用テープの構造だったからな。
結局、学会誌に載ることもなければ、取り上げられる事もなく。馬鹿な妻は夫と同じ事をやろうとして、妊娠した姪に同じようなテープを送りつけて自殺。
ま、姪はテープをあっさり焼き捨てたそうだがね。