洒落にならない怖い話を集めました。怖い話が好きな人も嫌いな人も洒落怖を読んで恐怖の夜を過ごしましょう!

  • 【洒落怖】心の闇

    2023/09/20 21:00

  • 高校二年の頃、俺は荒れていた。

    楽勝と思われた県立高校の受験に失敗し、低レベルな私立校に通うはめになったからだ。地方の小都市でのその種の挫折は、都会では想像がつかないほどの敗北感をもたらすものだった。

    立ち直れないまま入学したDQN高にはやはり各種DQNが集い、俺も朱に交わって立派なDQNになっていった。夏休み、俺はDQN仲間3人と真夜中のドライブに出かけた。

    勿論免許を取れる年齢ではなかったが、一応運転はできたので、親が田舎に行った留守を狙って、家の車を持ち出したのだった。顔見知りに見られたらまずいので、用心して人のいない方へいない方へと車を走らせていくと、やがて町はずれの寂しい場所に出た。

    街灯もろくになく、暗く細い道を適当に流しているうちに、古びた神社の跡を発見した。ライトで照らすと、鳥居も小さな本殿もボロボロで、石段には苔が生え、見るからに薄気味悪かった。

    しかしそこはDQNの見栄で、「心霊スポットかも。おもしろそーじゃん」とわざとはしゃいで探索し、境内を走り回ったり、建物の隙間をバキバキ広げたりした。

    やがて、田中(仮名)が裏手の木立で一本の剣を見つけた。幹に刺さっていたという。

    剣と言っても、柄は腐ったのか一部しか残っておらず、一枚の刃といった方が正しいような代物だった。しかし、手に持つとずしっとくる質感に、阿呆の田中は「お宝鑑定団に出したら、案外値打ち物かも」とか言い出し、その剣を自分のリュックにしまい込んだ。

    俺は、いくらDQNに成り果てたとは言え、信心深いおばあちゃんに育てられたので、「こういう場所から物を持ち出すのはやばくねえか?」と一応言ってみたが、「おまえ、なにびびってんの?」と半笑いで言い返され、それ以上は言えなかった。そのうちに探索にも飽き、俺達は神社跡を出た。

    ところが、10分ほど車を走らせた頃、突然車がガタガタ揺れ始めた。まるでオフロードを走るような激しい揺れ。

    いくら田舎でも道は舗装されていたので、もしや故障かと車を停めた。すると、後部座席のヤツらが「わぁーーー!!」とわめき始めた。

    ガタガタ震えながら横の窓を指さしているので、見るとそこには真っ白な無表情な顔をした人間が数人立っていた。いや・・・人間というより亡者といった方がふさわしいのだろう。

    全員白装束で、その目つきは、とてもこの世のものとは思えない。やつらはガラスに掌をぺたっとくっつけて車を揺すっていた。

    俺達が固まっているうちに、亡者はどんどん増えていく。やがて車は亡者たちに囲まれてしまった。

    車の揺れはますます激しくなっていく。「なんだよーこれー」助手席の田中が泣き出した。

    他のヤツらもべそをかいている。勿論俺も。

    真っ暗闇の中、白く浮かぶ無数の亡者たちが、そんな俺達を見つめている。そして、信じられないことに、車の揺れに合わせて4つのドアのロックがずり上がり始めた。

    このままだとドアを開けられてしまう。いや、亡者ならば、次の瞬間ドアをすり抜けて入ってくるかもしれない。

    物凄い恐怖に心臓が止まりそうだった。その時、地の底からのような低い声が聞こえた。

    「かえせー  かえせー・・・」返せ?何を?決まってる。田中が持ち出したあの剣だろう。

    「田中!さっきの剣、返してやれっ」俺は叫んだ。田中はガクブルしながらも、リュックから件の剣を取出した。

    その途端それまで無表情だった亡者たちは、いっせいにニヤっと笑った。そして、田中のそばのドアがバンッと物凄い勢いで開き、剣をつかんだ田中の手を、亡者たちがぐいぐい引っ張り始めた。

    「あーーーー」田中が悲鳴を上げた。もう「助けて」という言葉さえうまく発音できないようで、首を俺の方に巡らし、必死なまなざしを向けてくる。

    助けなければ・・・とは思っても、田中に触れたら俺も一緒に引っ張られてしまうと思うと、どうしても身体が動かなかった。そして田中は闇の中に飲み込まれていった。

    バンッとドアが、開いた時と同じく勢いよく閉まった。俺達はしばらく動けなかった。

    何も言えなかった。「・・・・田中は?どこに行った?」その声に我にかえってあわてて窓の外を見たが、亡者も田中もかき消すように消えていた。

    外は相変わらずの暗闇。何もなかったかのような静寂。

    「どうするよー」俺は残る2人に問いかけたが、あの神社に戻ってみようとか、田中を捜しにいこうとか、そんなまともなことは言えなかった。怖くて怖くて、一刻も早く、生きた人間たちのいる町に帰りたかった。

    そして俺達は逃げたのだ。その場所から。

    その後、田中の行方はわからない。田中が家に戻らないということで、担任から電話があっていろいろ聞かれたが、俺達は口裏を合わせて、「夏休みに入ってから会っていない」とシラを切り通した。

    すべて話しても信じてもらえる自信はなかったし、無免許運転がばれ、処分を受けるおそれもあった。もう何も思い出したくないという怯えもあった。

    俺達はそれ以上は追及されなかった。もともと田中は継母との折り合いが悪く、リア厨の頃から家出まがいのことを繰り返していたので、また家出だろうという結論になったらしい。

    何より、継母も担任も熱心に捜す気がなかったのだろう。形ばかりの捜索願が出されただけに終わった。

    それ以降、残った俺達はつるむことをやめた。共通の秘密と罪悪感は、かえって俺達の間に距離を生んだ。

    目を合わすことさえ、避けるようになっていった。俺はそれから必死で勉強した。

    その町から離れたかったのだ。念願かない、東京の大学に合格した俺は、その後一度も帰っていない。

    しかし、忘れてはいない。忘れようとしても忘れられない。

    あの日、田中が引きずり込まれていった暗闇。そして、その暗闇よりもっと暗い人の心・・・。

    田中を見殺しにした俺と、心配するふりはしても結局は田中を見捨てた継母や担任の心の闇・・・。